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【QD対談】祝2周年!創作の本質を見つめる二人の軌跡と展望

2025年5月26日

2025年5月19日、植田望裕と片山絵里のシアターユニットQDが、結成2周年を迎えた。大学時代に出会い、2年間で3作のミュージカル作品を世に送り出し、創作者としての絆を深めてきた二人。QDのこれまでとこれからの挑戦、心に描いている野望をうかがった。(構成:矢島緑)


——2周年と聞きました。おめでとうございます! ユニット設立の日はどのようなお話をしたんですか?


絵里 ありがとうございます! いつの間にか2周年でびっくりしました。

実際の「結成日」というのはけっこう曖昧なんですよ、何しろ付き合いが長いので。詳しくは前回の対談を読んでもらえたら嬉しいですが、私が大学4年、望裕が2年の時に処女作を書こう、とタッグを組んだところから2人の関係は始まっています。

それで卒業した後に、もっと書いていこう、創作母体を作ろうってなったのがいつだったかが実は定かではなく……。そこからユニット名をつけるに至っているので、その辺りが一応「QD」としての結成日かなぁ? それで正式に設立議事録やら何やらを整えた日が晴れての設立日!なので「気づいたらQDとしては2周年」って気持ちでした。


望裕 同じく! 俺は絵里から言われるまで5月に結成したことどころか、2年近く経ってることすら気づきませんでした。絵里の言うようにそもそも最初に作品を一緒に作ってからかなり経っていることももちろんあるし、個人的にここ数年は生活の主軸を演劇におこうと決めたり、大学院進学のためにニューヨークに引っ越したり、もっと直近だと期末だったりと詰め詰めだったのもあるかもしれませんね。


——2周年にあたって、どんな2年だったか振り返ってみてどうでしょうか。

 

絵里 あっという間すぎたって感じかも! 二人での創作は長いことやってて、代表作(にしたい)『The WALL』は通算5年くらい書いてたのもあって。

でもQDという母体を立ち上げてから、計画的に作品をコンスタントに生み出したり、対外的に今度はどこでどんな風に上演しようかって戦略を練ったりし始めたのは確かだ。それをしたからこそ、ここまでの2年で3作ミュージカルを上演できたんだと思います。


望裕 同意……。個人的には薄暗い路地裏を手探りで全力ダッシュするみたいな2年、って感じだった笑。3本といっても最初にリーディング公演を行った『ポーズ』は大学時代に書いたものの改訂版だったり、『The WALL』はQDを結成する前から書いていたり(このバージョンからは2曲しか残らなかったけど……笑)、『ベーコン・ワンダーランド』は45分の短編だったりと、完全新作のフルミュージカルを3本書いたわけじゃないけど、でもまあよくお互いに鬼忙しい中で書いたよな!と思います


絵里 いやほんとにね! よく出来たなと我ながら思ってはいます。全部ソングスルーミュージカルだし。ミュージカル書くのは、ストレートプレイ書くより遥かに工程数が多くて時間かかるもの。


望裕 本当にそれ!! 今学期、大学院の劇作の授業で初めて長編のストレートプレイを書いたんだけど、あまりにも進みが早くてびっくりしちゃった。良い悪いとかではなくて形式として、ミュージカルはいかに脚本と音楽を密接に意味を持って共鳴させられるかが重要になるので、プロットを練る段階から絵里とめちゃめちゃ相談するんですね。というか、そこが一番重要だったりする。一方その授業で書いていたストレートプレイの創作過程は、基本的に作家が書いてきたものをお互いに読んでみる、の繰り返しに尽きるので、ミュージカルじゃありえない速さで執筆が進んでいってびっくりした笑。


絵里 だろうなぁ。でもその脚本と音楽を組み合わせる構造の話し合いを大事にするっていうのは、最重要かつ基盤なので、これからも大事にしていきたいですね。

あと思うのはよく人々が集まってくれたなっていう。もうそこはほんとに感謝しかないです。ほぼ実績もない、無名の団体のオーディションに応募しようと思ってくださった方々のおかげで初演キャストが誕生しましたし、鬼忙しいスキルの塊のスタッフさん達が集まってくださったから舞台が成立しましたし。この記事を編集してくれてる緑さんももちろんその一人です!


望裕 そうですね。あと運営を手伝ってくれている珠季(足立珠季)も! QDとしては『ポーズ』の時から、俺と絵里個人としては大学時代からずっと一緒に演劇をやってる仲間でもあります。演劇、特に俺たちがやっているミュージカルはどう頑張っても2人じゃそもそも上演できないので、本当にプレ旗揚げから今まで関わってくださったり観に来てくださった皆さんのおかげで文字通り存在しています。言葉じゃ感謝を言い表せないくらいです。本当に。


絵里 人の輪が広がることによって、観てくださる方も広がり、私たちが出会ったことのなかった方々に作品を観ていただけていることが本当に嬉しいです。


——いま東京とNYそれぞれの場所にいるお二人ですが、何に関心を持っていますか?


望裕 俺の最近のもっぱらの関心は脚本/ストレートプレイと、デヴァイジング(devising)の二本立てですね。自分にとって脚本・演出は切り離せないものだと思ってこれまでやってきたんですが、こっちに来てから手放す面白さもあるなと思って。こう思えたのには理由があって、一つには自分のマイノリティ性が高まるのと反比例して、自分の共感できる物語を目にする機会が減ったこと。もう一つは、ドラマトゥルク・共同脚本としていろんな人が書いた短いシーンや言葉を一本の作品にまとめるという機会があったこと。

デヴァイジングというのは脚本家・演出家・役者などが共にアイディアを出し合って集団創作をするというプロセスです。この経験を通して、自分は演劇を作ることに興味を持っているけど、その中でも特に「物語を書くこと・伝えること」を重視しているのだと再確認することができたのが面白かった。大学で演劇を本格的に始めて以降、ずっと自分は視覚重視の人間だと思っていたので、かなりのパラダイムシフトが起きました。


絵里 そうなんだねぇ、面白い! 私たちそれぞれはQDに限って活動しようとしているわけではないので、望裕の今後の新たな作品にも期待ですね。

待ってめちゃくちゃ2周年にふさわしい真面目な回答してるじゃん笑……私は基本の関心は変わってないとして、望裕ほど真面目じゃないことで言うと、最近韓国語に興味を持ち始めました! 韓国では日本の比ではないくらい新作ミュージカルが続々生み出されているので、少しでもインプットできたらいいなという思いもあり、初歩の初歩から勉強を始めてみました。望裕もだよね?


望裕 そうなんよ。示し合わせたりしてないのに、俺が韓国語のテキスト買った頃に絵里とミーティングしてたら「韓国語の勉強始めたんだよね」って言われて笑いました。お互いに韓国のミュージカル業界への興味という点が共通してるのがいいよね。


絵里 そうそう、通じ合ってた笑。まだほんのちょっと学び始めただけでも、駅名の韓国語表示が(ゆっくりだけど)読めるようになったり、韓国のミュージカルのCDを聞いて、簡単な一言だけ聞き取れるようになったりするのがとっても嬉しいです。三日坊主になりがち&勉強熱心じゃないだけで、知らない言語を学ぶことは好きなんですよね。


望裕 えらい……俺まだテキスト開いてない……言語への興味で言うと、韓国のミュージカルそのものへの興味もあるし、比較的日本語に近いという点で、特に英語との翻訳の参考にしたい。あとシンプルに新しいアルファベットを知りたいってのもある。最近うっかりドイツ語始めちゃったんだよ、それで韓国語やってないのはあるね(ドイツ語も牛歩だけど笑)。

あともう一個興味持ってること思い出しちゃった。俺日本語でコメディ書くのがバカみたいに苦手なんですよ。でも英語でコメディ書くのは実は得意説が出てきて、今それをもうちょっと鍛えたいなと思ってる。

でもまあよく考えたらこれまでの人生におけるコメディのインプットが圧倒的に英語/欧米のものが割合として多いので、当たり前っちゃ当たり前なのかもしれない。逆に日本語のコメディっぽいもの、落語くらいしか知らんからな。


絵里 へえそうなんだ、それは早く読みたいね! でも分かる、結局人間、インプットから何かを生み出してるんだなと思う。


——離れていてもやはり息がぴったりですね。連絡は頻繁にとっていますか?


絵里 それはもうしょっちゅう、もちろん笑。残念ながらまだ創作だけで生きていけないので、他の仕事をしながら創作をしてるわけじゃないですか。そうなると執筆や作曲が進まない間に気づいたらあっという間に時が進んじゃうんですよ。それじゃ本末転倒じゃんと。

なので、QDとしてユニットを立ち上げてからは、計画的な公演の予定も踏まえて、原則週に一回はオンラインミーティングをすることにしました。仮に進捗がほぼ無くても、運営のこととかもあるし、こまめにお互いにフィードバックをしておいた方が良いものになるかなと。


望裕 ここ最近は俺が「ごめん引っ越ししてて書けなかった」とかいう機会が多すぎるんですが、ケツを叩くって意味でまじで週一のミーティングはQDの肝ですね。


絵里 執筆が遅れると、私の作曲期間短縮という皺寄せが発生するので、望裕のペースが悪いと、ミーティングしてる横で妻が「もー望裕さん! 頑張って!!」と代わりに怒ってます笑。


望裕 それはねえ実は感じている笑! ごめんなさい!!


絵里 感じてるんだ笑。でも実際に会ってるわけじゃないし、NYでは日本と全然違う環境で色んなことが起きていたりするし、お互いに観ている作品ももちろん違うので、毎回実は雑談もめちゃくちゃしたいんです。時間も限られているのでいつも適度に切り上げますが、ほんとはただお喋りしたいことはまだまだいっぱいあると思う。


望裕 それな、2時間のミーティングでちゃんとした進捗確認は1時間のこととかあるよね、週一で話してるのに笑。


絵里 一時帰国を楽しみにしてるぜ!!


望裕 いつになるかな! NYに来てくれたっていいんだぜ!




——次の作品についてや、ここから数年の予定、野望などなど話せる範囲でぜひお聞かせください。


絵里 まずここまでの2年間で、3作を創作・上演してきました。望裕の大学院卒業を一つの区切りと考えると、あと2年ある予定なので、その間に2回ほど公演を打ちたいと考えています。うち一つは新作を上演したいなと!

とはいえこのペースでミュージカルの新作を書き続けるのはかなり速いので、どうしたら作品の質を上げられるかも考えていて。アイディアの一つとして、今年の年末頃に「試演会」というものをしてみたいと考えています。というかほぼ決定! オーディションもする予定です!!

NYや韓国では、作品を作る際に一度試演会(ワークショップ)を設けて有識者に簡易的な形で作品を見せ、フィードバックをもらいながらブラッシュアップしていくという取り組みがけっこうあります(映画『tick, tick…BOOM!』をご覧いただけると分かりやすいかと!)。

日本ではそもそもオリジナルミュージカルの創作数自体が圧倒的に少ないのはもちろんのことですが、試演会という試み自体もあまり見られないので、QD初の試みではありますがやってみたいと思っています!


望裕 NYに来てから、ミュージカルだけでなくストレートプレイでもワークショップを目にする機会が増えていて、それをうまく取り入れたいなと思っています。演劇は本質的にコラボレーションが鍵になる芸術だからこそ、その創作過程で外部からの意見をもらう、というのはとても重要であると思っています。試演会でいただいたフィードバックを元に作品をブラッシュアップし、フルプロダクションで本公演をお届けする予定です。


絵里 日本のオリジナルミュージカルは少ないと言いましたが、同世代で同じようにミュージカルの創作を頑張っている方々もおられ、最近そうした横のつながりも徐々に増えてきています。ライバルではあるんだけど、この色々と厳しい日本の状況の中で頑張っている同志の方々でもあるので、これからもっと対話したり関わって、お互いに知見を広げていけたらいいなと個人的には思っています。その対象として見てもらえるようにQDも頑張ります。


望裕 俺は今見に行けなくて悲しい……その分こっちでいっぱい見るぜ!


絵里 頼んだ! 望裕が卒業した後のことは未定だけど、せっかく2人とも英語もできるし望裕はグローバルな人脈を広げているので、いつか国外公演とか!? もしくは国外キャストの招聘とか!? 日英両言語同時上演とか!? できたら楽しそう!とか想像をふくらませています。


望裕 俺は地道に過去作の英訳を作り始めたりね、してるんです。夢物語ではないのよ。


絵里 未知なる可能性を広げて、QDガンガン頑張っていきます! みなさんがついてきてくださると嬉しいなぁ。面白がっていただけるように全力を尽くします。


望裕 よろしくお願いします!



対談構成した人

矢島緑(やじま・みどり) 1987年北海道生まれ。大学卒業後、出版社に勤務し小説の編集をおこなう。2024年に別業界に転職するまで、文芸誌「文藝」編集部で主に純文学の新人作家の作品を広めることに務めた。担当作に宇佐見りん『推し、燃ゆ』、児玉雨子『##NAME##』、安堂ホセ『ジャクソンひとり』、大前粟生『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』、王谷晶『ババヤガの夜』など。心はいつも編集者。https://www.instagram.com/yajimamidori39/

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