top of page

【QD対談 vol.4】歌、楽器、そして言葉の対話。「Y」本公演が示す新しい表現の地図

2026年7月3日

シアターユニットQDの2026年2回目の公演は、3月に試演会を行った新作ミュージカル『Y』の本公演。外部の意見を取り込むことも目的に行われた「試演会」は、作品製作にどんな影響を与えたのか、植田望裕(脚本・作詞・演出)・片山絵里(作曲・作詞・伴奏)が語り尽くす。

——「試演会」という大実験を経て、いよいよ本公演ですね。


植田:そうなんです。一つの作品を長い時間をかけて作り上げる試みとして、3月に試演会(詳しくはこちらの対談を参照)を行いました。そこでお客様からいただいた感想を元に作品を練り直し、今回の本公演に繋げる、というプロセスをとっています。


片山:脚本面でも音楽面でも、様々なフィードバックをいただけて、やってよかったよね。


植田:ね。日本で演劇を作っているとどうしても、作品が完成するまでは外部からの感想を得ることができないんですが、今回は試演会を経ることを念頭に置いていたので色々な実験をできました。

で、いただいた感想を元にまず大まかに二人で修正するところを共有し、私が脚本・歌詞を修正して絵里が曲を修正するという流れでした。


片山:大きく話の筋が変わったというよりは、よく分からなかった、とか納得感がなかった、という意見が多かった箇所を、補完するような部分が増えましたね。細かい文言が変わった部分やワンフレーズ追加された曲もあれば、パッチワーク的な修正が多すぎてまるっと新曲になった部分なんかもあります。試演会見てくれた方は、どこが変わったのか?という視点でもお楽しみいただけるかもしれませんね。


植田:3つ目の空港であるニューヨークは、中盤でちょうど観客側の集中力が切れてくる頃ということもあり、修正にも実は結構苦労しましたね。書きはじめから本公演の修正まで、脚本家としても演出としても、一番自分の共感が大きく解像度が高い一方、最後までバランスに悩んだところでもあります。


片山:休憩がなくて歌のみだから、余計にね。


植田:それつながりでいうと、試演会の時に多くいただいた感想の一つに、「ずっとピアノが鳴っていて疲れた」というものがあったんですよ。試演会はシーンの伴奏をピアノ一本でずっとやっているし、本作はソングスルーミュージカルなので当たり前と言えば当たり前なんですが、確かに疲れるよなあと。本公演ではメロディは変わってなくても伴奏を変えることでものすごく印象が変わった曲がいくつもあるよね。


片山:そうだね。強弱やテンポという点でも緩急・ダイナミクスをもっとつけた方がよいという音楽的なフィードバックもいただき、そのあたりも意識的に今回のブラッシュアップに反映したつもりです。が、まだまだ私の欲張り癖との戦いです。


楽器合わせ中の作曲家
楽器合わせ中の作曲家

——QDとしてピアノ以外の楽器が入るのは初めてと聞きました。その狙いは?


片山:いやぁ念願の、ですよ念願の。今作はトライアルを経ての上演だったので上演だったので、試演会でも試験的にピアノ以外の楽器を取り入れました。まずはアルトサックスが決まったんだけど、音域も音質も変えたいということで中低音楽器を探しつつもなかなか決まらず。


植田:どうせなら管楽器以外のものがいいよねというのは一致していて。それでたまたま、「そういえば歩夢くん(チェロ・西田歩夢)って音大でチェロやってるのをインスタで見たかも!」と思って十数年ぶりにコンタクトを取りました。歩夢くんは幼稚園の時の幼馴染で、大学も比較的近かったんですがその間に会うことはなく、二十数年ぶりの再会でしたね。もうほぼダメ元だった。


片山:引き受けてくれたと聞いた時はびっくりしたよね。本当にご縁に感謝で。本公演は様々な流れがあって女性キャスト2名になるということが決まったので、では音域が低い楽器を入れたいねということでチェロを継続して起用することにしました。


植田:試演会の公演が終わった直後にお願いしたんだけど、ほぼ即決で引き受けてくれたんですよね。本公演ではエモさと優雅さの8割をチェロが担保しています。あと、ピアノ以外の楽器が伴奏の選択肢に入ることで、作品の表現の幅がより大きくなったよね。


片山:間違いない。特に静かな曲のバリエーションが増えたかな。そして念願のドラムも!打楽器はずっと入れたかったよね。


植田:まじでそれな!!


片山:ドラムのチェケくん(チェケラッチョこういち)とは、私が作曲・音楽監督を務めた2月の別の舞台で出会ったんだけど、芝居をくみ取ってアレンジを考えたりアップデートし続けてくれたりするところが本当に素敵でオファーをしました。どうですか実際音楽合わせなどを経て。


植田:めっちゃいいよね。私は演劇の本質は他者とのコラボレーションだと思っているんです。自分一人で達成できないことでも、異なる得意分野をもつ複数人が集まることでつくりあげることができる。私がその中でも演出をしている一番の理由、かつ演出のもっとも贅沢なことって「やりたいことはこれなんだけど具体的にどうしたらそれを達成できるのかわからない、助けてくれ」って言ったらみんなが助けてくれるところだと思うんですよ。だから今回のチェケくんも、こういう場面だからこういう役割をドラムにやってほしい、みたいなオーダーをしたらそれをどう表現したらいいか考えてくれるっていうのが、すごく楽しいし、演劇をやる面白みってそこだよなあと感じています。演奏が素敵なのはもう大前提としてね!


片山:そうだよね、すごい音楽合わせの場がクリエイティブだなぁと思ってます。ドラムのことをよく知っているチェケくんにアイディア出しからお願いできた方が豊かな創作になるなと思って、ドラムアレンジからお願いすることにしました。やっているうちに、芝居との合わせポイントのアイディアも出てきちゃったりしてね。


植田:冒頭の成田空港のシーンでミキが手荷物を預ける際、空港の職員と会話するところがあるんですが、元々はミキのセリフだけだったんです。そこに空港職員側のセリフをかいて、チェケくんにドラムで表現してもらうっていうアイディアが今回の本公演では出てきました。


片山:私そういうの大好き!笑 チェケくんも「ドラムで人と会話するのは初めてです」って言ってた。ずっと歌のソングスルー形式だからこそ、音楽的なバリエーションや立体感をどのように出せるかということに、これからも尽力し続けたいと思っています。


初回楽器合わせの様子
初回楽器合わせの様子

——「Y」というタイトルに込めた意味やイメージを教えてください。


片山:色々考えて辿り着いたのは、始めは同じ場所にいた二人がどんどん離れていく様子を記号的に表して『Y』とかどうだろうというアイディアでした。


植田:最初重なっていた道がだんだん別れていくっていうのは、作品のテーマでもあるし、パッと見た時にわかりやすいですよね。だから試演会のフライヤーをデザインしたときも、そのイメージでデザインしました。


片山:古戸森さん(宣伝美術・古戸森陽乃、かるがも団地)に作っていただいたフライヤーもそのイメージを反映してくださっていてすごく素敵ですよね。空港、滑走路、2人の人生、などなど色々と想像が膨らんでわくわくしました!


植田:あと今回の舞台装置もY字をイメージして作っていただきました。舞台美術の村田さん(村田夏美)は試演会の照明を担当してくれた茜さん(磯山茜)のお知り合いなんですよね。私が本公演の美術を探している話を茜さんにしていたら、「試演会を観にきてた知り合いで美術やってる人がいるよ」と紹介してくださって。


片山:いやほんとに試演会を観にきてくださったご縁に感謝です。


植田:今回は会場の構造的にも物語的にも二面客席にしてみたいと割と初期の頃から思っていたんですが、ものすごく具体的なアイディアがあったわけではなく。村田さんにいろんなイメージをお送りして、そこから今の美術の形に変化していった感じです。

1相談したらいつの間にか3にも4にもなっている感じでいろんな提案をしてくださっているので、ぜひ細部にも目を向けていただければ嬉しいです。


片山:飛行機のミニチュアを吊るってアイディアを聞いた時はびっくりしたね。対談時点ではまだ劇場入りしてないわけですが、全部が合わさってどうなるか、本当に楽しみです。


頑なに椅子に座らない演出
頑なに椅子に座らない演出

——最後に、この作品が問いかける「対話」について聞かせてください。


植田:QDのこれまでの作品を含め、私が書く脚本は常に社会に対する疑問から始まっています。本作は「一つの”事実”に対して人の数だけ”真実”が存在する」というコンセプトの絵里の案から始まっていますが、そこに付随するテーマとして、社会や政治という大きい波が、個人と個人という小さな関係にどんな影響を与えるのか、を問いかける作品にしてみました。分断の時代である今だからこそ、いくらめんどくさくても難しくても、対話を試み続けるしかないのではと思っています。だからこそ逆説的に、本作では対話の拒否を描いたのですが、脚本自体を書き始めたのは去年から、3月の試演会を経て本公演までの間にもどんどん社会が変化して、作品で提示しようとしたことが当たり前みたいになっている状況には危機感を覚えています。未来の話を書いて、それがある意味当たっていればそれは自分の見通しがある意味あっていたということなので嬉しくはあるのですが、基本的に作品を書く時には”こうはならないでほしい”と思って書いているので全然嬉しくないですね。困った。


片山:未来を予見して書いてるわけではないと思うんですが、刻一刻と今の社会、政治が予断を許さない状況になっていることを本当に危惧しています。今回はミキとジン、二人のどちらかが「正しい」という話ではないし、どちらにも言い分や言い訳があると思う。どうして分かり合えなくなっていくのか、対話を諦めてしまうのか、その先にある未来は…などお客様それぞれの視点で何を感じていただけるのか、感想もぜひ伺えたら嬉しいですね。


植田:ぜひ。対話、しましょ。

(終)


<公演情報>

ミュージカル『Y』

マグカルシアター参加公演

2026年7月10日(金)〜12日(日)

神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI​

​新作ソングスルーミュージカル


脚本・作詞・演出 植田望裕 × 作曲・作詞・伴奏 片山絵里


■チケット

劇場観劇チケット https://ticketme.io/event/group/60c12344-d420-4372-a9c5-8b03603f0824/f4120164-35e6-4d13-94ad-38f84c46bb2d

配信チケット   https://www.confetti-web.com/events/16075


■あらすじ

1つの出来事、2つの記憶。あなたは“親友”だったのか——

​​​​

2001年夏、成田空港。学生生活を終えたミキは、新生活への不安を抱きつつも生まれ育ったアメリカに帰国する。一方、常に自分の意志を貫くミキの強さは、漫然と留年をしたジンには眩しく見える。ジンとの友情だけは続くことを期待するミキと、いつかアメリカを訪れることを夢見るジンは別れを交わす。東京、ベルリン、ニューヨーク、ブエノス・アイレス——空港で再会するたびに、2人の“親友” たちは次第に違う方向へと向かっていく。

​内容に関する事前警告(Content Warning):確認はこちら


■公演の詳細はこちら!

NEXT


​これまでのQD対談

【QD対談 vol.1】「普通」も「常識」も「正解」も変えていく。ミュージカルという表現を選んだ二人(2025年1月14日)​​

【QD対談 vol.2】祝2周年!創作の本質を見つめる二人の軌跡と展望​(2025年5月26日)

【QD対談 vol.3】ミュージカルを「つくる」プロセスを可視化する――QDの新たな実験(2026年2月22日)

bottom of page